かあちゃん
2006年 11月 19日
天保末期の厳しい時代、重税や飢饉にあえぐ長屋にあっても清らかな心を忘れない一家の物語だ。ともすれば人を信じることを忘れて物的な価値観が優先されがちだが、厳しい状況に負けて過ちを犯してしまった人を許し、一家をあげて助け、見返りなど求めず、それが実を結ぶファンタジーのような話だ。
でも、どんな時代でも忘れてはいけない貴重なものを思い出させてくれる。この家族の行いは、はんぱではない正しさで、しかも素晴らしい思慮のもとに行う。特に岸惠子扮する、かあちゃん“おかつ”の並々ならぬ万人への愛情が一際輝く。彼女のもとで育った子供たちが立派にならない訳がない。息子たちにもしっかりと継承されている。
思えば、現代は、親の権威の失墜・家族間で倫理観や道徳を司る大人がいない。嘆かわしい時代だ。責任がどうの、一体何故こうなるのなどと言う前に、自分の生き方を見つめてみようと思わせる映画であった。
色彩は、監督らしいモノトーンに近いこだわりのあるすばらしい色彩に思えた。東京オリンピックで、競歩選手のお尻の動きにこだわったように、恐らくかんなくずがひらひらと舞う映像にもこだわっただろうなと勝手に想像する。もう一つ、長屋の人々を横に並べて、一人一人の村人に象徴的な役割を持たせる形式美。更には、こだわりの配役。
大林監督が、青空にこだわったライティングしたように、色彩一つにも、素人にはわからないこだわりに時間をかける贅沢さを感じ取れたときの至福観をも味わわせてもらえた。