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地元学でいう「風の人」として足元を見つめたり、できことを自分の視点で考えたりしています。好奇心・道草・わき道を大切にしています。


by シン
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高子から全国に発信される文学活動⑧~熊阪台州氏⑭

 森鴎外が真間の手児奈の祠に詣でた際に、熊阪子彦の説によって「てこな」とは「蝴蝶」のことであると述べているという。
 昨日は、その熊坂子彦の説とはどのようなものであったのかという問いに必要な予備知識を確認した。

 そこには、「万葉集に記される『真間の手児奈』のテゴナも蝶にちなむ名であろう」という記述があるようなので、「万葉集に記される真間の手児奈」も確認しなければならない。
 自分に理解できる程度の資料として見つけたのが「万葉集を読む」というホームページ。ここから読み取ったものの抜き書きだ。
http://manyo.hix05.com/akahito/akahito.tekona.html
 まずは、「勝鹿の真間の娘子が墓を過れる時、山部宿禰赤人がよめる歌一首、また短歌」
  古に ありけむ人の 
  倭文幡(しつはた)の 帯解き交へて 臥屋建て 妻問しけむ 
  勝鹿の 真間の手兒名が 奥津城を こことは聞けど 
  真木の葉や 茂みたるらむ 松が根や 遠く久しき 
  言のみも 名のみも我は 忘らえなくに(431)
 反歌
  我も見つ人にも告げむ勝鹿の真間の手兒名が奥津城ところ(432)
  勝鹿の真間の入江に打ち靡く玉藻苅りけむ手兒名し思ほゆ(433)

 その注釈に「この時代は、男が女のもとに通うのが結婚のあり方だったから、夫の不在の折には、他の男が愛を求めて通うことがあっても、不思議ではなかった。だが、手古奈は、そんな自分に罪の深さを感じた。彼女は、罪を償おうとして自らの命を絶った。そこに、赤人は感動したのだろう。反歌には、手古奈の墓を見ての感動がいっそう強く歌われている」とある。

 次に、高橋虫麻呂の「勝鹿の真間娘子を詠める歌一首、また短歌」
  鶏が鳴く 東の国に 古に ありけることと
  今までに 絶えず言ひ来る 勝鹿の 真間の手兒名が
  麻衣(あさきぬ)に 青衿(あをえり)着け 直(ひた)さ麻を 裳には織り着て
  髪だにも 掻きは梳らず 履をだに はかず歩けど
  錦綾の 中に包める 斎(いは)ひ子も 妹にしかめや
  望月の 足れる面わに 花のごと 笑みて立てれば
  夏虫の 火に入るがごと 水門入りに 舟榜ぐごとく
  行きかがひ 人の言ふ時 幾許も 生けらじものを
  何すとか 身をたな知りて 波の音の 騒く湊の
  奥城に 妹が臥(こ)やせる 遠き代に ありけることを
  昨日しも 見けむがごとも 思ほゆるかも(1807)
 反歌
  勝鹿の真間の井見れば立ち平し水汲ましけむ手兒名し思ほゆ(1808)

 「鶏が鳴く」は関東の枕詞で、都に先立って夜が明けることによるとのこと。
 この歌には、手古奈の面影が、赤人の歌以上に詳細に語られているとして、次のような注釈。

 「麻衣に 青衿着け 直さ麻を 裳には織り着て 髪だにも 掻きは梳らず 履をだに はかず歩けど 錦綾の 中に包める 斎ひ子も 妹にしかめや」は、貧しい農民の女ながら、その美しさは着飾った富める女も及ばないという手兒名のういういしさの強調。
 手児奈は「望月の 足れる面わに 花のごと 笑みて立てれば」どんな男も心を動かされたに違いない。「夏虫の 火に入るがごと」、彼女の魅力に引き寄せられたのだと。
 「行きかがひ人の言ふ時」は、複数の男が入れ替わり手古奈に言い寄るさま。
 しかし、手古奈は「何すとか身をたな知りて」命を絶つ。自分の身の浅ましさをはかなんだのでもあろうか。
 「奥城に 妹が臥やせる 遠き代に ありけることを 昨日しも 見けむがごとも」は、虫麻呂が手古奈の墓を見て、その薄幸への同情。

 更に、万葉集巻十四の手古奈の伝説に触れた東歌も紹介される。
  葛飾の真間の手兒名をまことかも我に寄すとふ真間の手兒名を(3384)
  葛飾の真間の手兒名がありしかば真間の磯辺(おすひ)に波もとどろに(3385)
  足の音せず行かむ駒もが葛飾の真間の継橋やまず通はむ(3387)

 ちょっと背伸びして自分の理解を超えたページだったかもしれない。
 それはともかく、鴎外氏は、ここに詠まれる真間の手児奈のテゴナも蝶にちなむ名であろうと熊坂子彦の説に従って解釈したということのようだ。
by shingen1948 | 2016-12-26 10:58 | ◎ 地域散策と心の故郷 | Comments(0)