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地元学でいう「風の人」として足元を見つめたり、できことを自分の視点で考えたりしています。好奇心・道草・わき道を大切にしています。


by シン
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「福島民報」が伝える渡利模擬原爆投下記事

 昨日は、渡利模擬原爆投弾と着弾の関係を、「福島郊外に投弾~水田に大穴・盲爆に市民は奮起」と題した「福島民報」の記事をもとに整理してみた。
 今回展示されるその「福島民報」の記事のコピーは持っているが、この手持ちの資料は図書館のマイクロフィルムでこの部分を印刷させていただいたものなので、不鮮明なところがある。
 今回の企画展で展示される資料は鮮明である上に、清書解説されたものまで添付展示されている。 記事内容をより明確にとらえることができるようになったということも、今回の展示会に出かけてきた成果の一つだ。
 添付展示された清書解説される記事は次のようだ。
 福島郊外に投弾 水田に大穴・盲爆に市民は奮起
 県警防課発表(正午)二十日午前八時四十分頃大型と判断せらるゝ少数機は県内に侵入県下を行動したる後一部農村に無差別爆撃をしたる後九時三丗分頃東南部洋上に脱去せり、被害極めて軽微なり
廿日午前八時卅分頃突如福島市上空に爆音を響かせた敵大型機一機は雲上を旋回し北東に機首を向けた際置土産に五百キロ爆弾一個を福島市郊外の水田に投弾するやそのまゝ北東部から洋上に逃げ去った、被害は水田約三反歩に大穴を明けた程度だった、敵機は『この辺が福島市だらう一発落して驚かせてやれ』と雲上から盲滅法に投弾したのが福島市の中心部から二キロ以上も離れた山間の水田に落ちたものとみられ帰り際に驚かせてやれと云ふ神経戦には福島市民や信夫郡民は決して驚かぬ、初の投弾だけにやゝもすると知ったかぶりをする人間が出たり誇大に被害や爆弾の威力をお喋りする者が出やすいが、こんな者にこそ敵の神経戦的爆撃に乗ぜられたと云ふべきで、われわれはあくまでこの戦訓を好奇心を満足させる道具としてはならぬ
 現場に伏せて助る 圃場護る烈々の農魂 
 畜生!敵機は遂に福島市郊外を襲って遁走して行ったが、昨日廿日朝いきなり落したのはたった一発、全くの盲爆振を発揮して水田に大穴を開け、徒に県民の物笑ひの種をまいたに過ぎなかった、この朝、逸早く警戒警報は発令されたが、流石に東北の農村魂は田の草取りに忙殺されてゐた『この田が俺達の戦場なのだ』―この気構へがいきなり爆弾の落下音が耳に入った瞬間、皆を畦の陰に伏せさせた、作物の被害は二枚の水田が埋った位で、あと附近の十枚ほどの田が吹っ飛んで来た泥塊を取り除けばこの秋の穫り入れには差支へない程度である、今までやゝ空襲騒ぎにおびえ過ぎてゐた感じのこの農村も、却って拍子抜けのした様な表情をしてゐた、落下現場から僅かに卅米位しか離れない所で田の草を取ってゐた尾形金市さん(五六)菅野文吉さん(四十)等は『ナーニ、俺等は泥を被っただけですよ』と至って元気だった
 『山の陰からいきなり爆音が聞えたと思ったら大きい音がしました、今考へるとあれが落下音だったんですね、雨戸を七、八枚一ぺんに開ける様な音がしたので、いきなり土の中にもぐる様に突伏したんですが―此れで助ったんです、田畑は俺等の死場所だから、あくまでも護り抜く覚悟ですが、ぼんやり立ったまゝでゐたりすると危険だと云ふことがハッキリ判りました 畔の蔭でも何でも物陰があったら素早く退避すれば恐しいとは思へない、素掘りでもいゝから穴を掘ることにします
 ―これ等の人達の話を現場の状況から判断すると、田畑の様に軟泥の土地に落ちたときの爆風は非常に死角が大きいといふことである 吹き上った泥はほとんどもとの落下現場に落ちて堆く積まれてゐることから見ても、待避の姿勢は出来るだけ低く伏せるのがよく『落下音を聞いたら伏せる』覚悟さへ常にできてゐれば、警報下と雖も田畑は護り通せるのだ、各被害地共通の敵愾心はこゝでも噴き上って、敵機はたった一発の爆弾で却って戦ふ農魂を振起した結果となってゐた、近くの国民学校の加藤校長も『思ったほどではありませんでした』と次のように語ってゐる
 『昨日の朝は警報が登校時だったので児童は三分の一位しか登校してゐませんでしたが、全部防空壕に待避させてゐたので一人の被害者もありませんでした、校舎の硝子が半分ほど壊れた程度でした、敵機が退去した後、児童達も割に落ちついてゐるのも責任者として安心しました』
 どこの例を見ても同じだが、空襲騒ぎは常に害が誇大に喧伝されてゐるが、これは皆が注意しなければならないことである、たゞ昨日の朝の遺憾だった点は、敵機が退去した後、不注意にも爆弾の破片が藁屋根に突きさゝり、そこから小火騒ぎを惹起したことである、これなど三、四分間ほど白煙が昇った程度なのだから、極く一寸した注意を忘れずに附近の者が見廻りさへすれば防げたことなのだ
 火災にも注意 警報下硝子の処置を忘るな 
 今回の爆弾は比較的大型とされてゐるもので現場附近の家屋に爆風のいたづらがそちこちに見られることと爆弾投下後数十分を経てから弾片による小火の発生をみた事は農村に多い茅葺家屋に住むものにとっていくつかの戦訓を与へた、この戦訓を今後活かして益々鉄壁の防空態勢を控へ醜○撃滅に県民は挙って邁進しよう、爆風に対して一番危険なのはガラス類で特に屋内のガラス戸、窓等であるガラス戸、窓は空襲警報発令と同時に取り除く事になってゐるが現在の如く少数機の来襲には空襲警報は発令されないので警戒警報発令とともに実際は空襲態勢に移らねばならぬのだが今回の被害状況は視るに単機空襲だったので一般は『また少数機か――』と云った甘い考へ方から殆どこの空襲に対する準備行動を起してゐなかった点が大きく目立つ、建具を全部ガラス戸とした其家は雨戸も閉めずにゐた為ガラス戸は木端微塵になり棚の品物は落下した、幸ひに人には損害はなかったが現場をみると廊下にぼやっとしてゐた十歳の子供と室内にゐた妻君も怪我一つしなかった事はむしろ奇跡である、今後はガラスに対しては全部紙を貼るとか、取りはづして置く事が必要だ、例へば戸、襖などを取りはずして置けば爆風は窓から窓へ抜けて被害も僅かで済む、特に学校などの如く全部ガラス窓を使用している処は紙を貼る事実施しなければならないのに同所の国民学校は何んの準備もしてなかった、今一つの戦訓は普通の破壊用爆弾の破片でも火災が起るといふ事である、落下現場から約五十米は慣れた農家の屋根から数十分後に火が発生した、これなどは屋根が茅葺きのため非常に引火しやすい点もあったが炸裂した瞬間の弾片は灼熱してゐるもので、この破片が燃焼物についた場合忽ち火を発するのは当然だから爆弾だからといふので安心してゐてはならぬことを教へてくれた、焼夷弾の場合だけでなく爆弾の時でも附近の人達は一応自分の家の周囲を調べる事を忘れてはならない、茅葺屋根の場合その破片は相当深くまで突きさゝるからよく調査する事と暫く経って再び異状なきかをみる事が肝要だ、今回の場合は現場附近の火災のため人員の応援も多かったし、防自動車も来てゐたので大事に至らず消し止めたがこの際痛切に感じた事は水の不足だ、水の必要性は幾度となく叫ばれてゐるが未だその用意のないのは農村ばかりであらうか県民は今ぞ防空態勢を詳細に再検討せねばならぬ
 
Commented by 玉井人ひろた at 2015-11-11 08:16 x
もっと県内に知ってもらいたい史実ですね
Commented by shingen1948 at 2015-11-16 05:55
郡山や平では、たくさんの空襲の中の一つということで、この模擬爆弾の情報は曖昧になりがちですね。福島は、それだけの体験事実ということは、この模擬爆弾について詳細に確認することで、その本質が見えてくるような気がしています。
by shingen1948 | 2015-11-10 08:42 | ◎ 福島と戦争 | Comments(2)